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設立趣意書

 この度、「日本放射化学会/ The Japan Society of Nuclear and Radiochemical Sciences (仮称)」を設立することになり、本年10月12日(火)につくば国際会議場(茨城県つくば市)で設立総会を開催いたします。本学会設立にいたる経緯、目的、理念などについてご紹介させていただきます。

 わが国の放射化学研究の端緒は、岡本要八郎による北投石の発見(1906年)とされています。1920年代には、飯盛里安(理研)が研究室を主宰し放射化学を新しい研究分野として開拓しました。 その流れは、木村健二郎(東大)や仁科芳雄(理研)らに引き継がれ、放射化学の基礎が築かれました。戦後の一時期、日本における原子力関連の研究は全面的に禁止されましたが、仁科の努力が実り、放射化学研究は1950年に再開されました。

 戦後の放射化学研究で歴史的に重要なものとして広島、長崎への 原爆投下にともなう放射性降下物の分析と1954年の第五福竜丸の「ビキニの灰」の分析があげられます。その後、放射化学は研究用原子炉や加速器の整備と歩調を合わせて大きく発展しました。 多くの研究者が核・放射化学の基礎研究と教育に意欲的に取り組み、数々の輝かしい研究成果をあげました。 原子力平和利用への貢献も顕著で、ラジオアイソトープの国産化、再処理技術の開発、原子炉および核融合炉化学研究などの面で重要な役割を演じてきました。また、数々の国際会議を開催し、世界の放射化学の発展に貢献してきました。最近では、わが国の核・放射化学は世界を指導する立場にあります。

 わが国の核・放射化学研究者の研究発表と交流の場である放射化学討論会の第1回会合は斎藤信房(東大)が世話人となり、「ビキニの灰」から間もない1957年に東京で開催されました。 その後毎年1回開催され、本年10月につくば市で開催される討論会は第43回目に当たります。この歴史ある放射化学 討論会は研究者の自主組織「放射化学研究連絡委員会」によって運営されてきましたが、最近、研究者の組織化を望む声が高まってきました。 原子力研究開発に対する社会の受け止め方が変化しつつある今日、新たな発想で学会をつくることに意義があるとの認識に立ち、昨秋、放射化学研究連絡委員会の中に学会設立準備委員会が設けられました。

 現代の放射化学は学際研究の性格が強く、核・放射化学研究者だけの組織に固執している時ではないと考えます。 放射化学は、H.A. Becquerel、Curie夫妻、G. Hevesy、O. Hahn、G.T. Seaborg、 W. F. Libbyといったノーベル賞受賞者を輩出しましたが、化学反応動力学の研究で1986年に受賞したY. T. Leeや オゾンの形成と分解に関する大気化学的研究で 1995年に受賞したF. S. Rowlandも放射化学の研究仲間です。 接点を有する関連分野の研究者が一堂に会し議論を展開する場をつくることができれば、境界領域を通して相互の刺激を高め、研究の活性化と若手研究者の育成につながります 。 関連分野として放射線化学、無機・分析化学、宇宙・地球化学、素粒子・核・原子物理学、放射線物理学、保健物理学、加速器科学、材料科学、環境科学、放射線生物学、核薬学、核医学、放射線医学などを視野に入れ、学問の発展と人類の福祉に貢献することを念願しています。 また、原子力研究開発の一環として、核燃料サイクル技術の確立、特に、バックエンド技術の確立や環境問題の解決にも貢献したいと考えて います。本会の名称は日本放射化学会(仮称)といたしますが、英語名に学際的サイエンスの意を込めました。

 本学会は、放射科学(サイエンス)研究の重要性に対する社会的認識の向上を図るため、放射能および放射線教育の普及活動を積極的に支援することも念頭に置いています。 また、国外にも積極的に情報を発信し、本会会員が世界で指導的役割を果たす機会の創出を念じています。2年前の第41回放射化学討論会(於 熊本大学)は、Asia-Pacific Symposium on Radio-Chemistry (APSORC '97)として開催し、国外の方々からも好評を得ました。 アジアをはじめ世界との交流を深めるためにも、このような国際会議を継続して開催することも本学会の責務と考えています。学会としての実績を積み重ね、近い将来、日本学術会議会員を推薦できる学術団体への飛躍をめざします。

 本会設立の趣旨にご賛同いただき、本学会活動への積極的なご参加をお願いいたしたく、ここにご案内申し上げます。

 

平成 11 年 4 月

日本放射化学会(仮称)設立準備委員会   
  委員長  工  藤 博 司 


     事業の概要
・ 学術講演

 定期的に(年1回)年会(放射化学討論会)を開催し 、会員に研究成果発表と交流の場を提供します。全会員に、講演要旨集 (会 誌のSupplement) を 無料で配布します。

・ 会誌の刊行

 年2回、和文誌「放射化学」を発行します。本誌は、査読付き論文(原著論文、総説論文,短報)に加え、特集記事、解説、トピックス、学位論文要録、学会関連記事など、会員に対して種々の情報を掲載します。本ホームページで電子出版します。本会会員の希望者に、冊子体を無料で配布します。

 学術論文誌「The Journal of Nuclear and Radiochemical Sciences」を刊行します。放射化学並びにその関連領域における重要な進歩を含む学術論文(英文)を掲載します。Reviews、 Accounts、Articles、Notesの各掲載欄が設けられており、会員・非会員を問わず投稿できます。投稿料を必要としません。投稿された研究論文等は編集委員会で審議され、査読、著者への照会を経て、掲載の可否の判定を受けます。掲載論文は掲載可となった時点で、本会ホームページ上で公開されます。

 

・ その他

 研究会、講演会、講習会などを開催いたします。また、若手研究者の優秀な研究成果に奨励賞などの贈呈を計画しています。