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JNRSメールニュース 第9号 (2016/10/04)

目次

(9−01)
初のXAFSスペクトル測定によるアクチニウムの溶液化学研究
(9−02)
新刊紹介「大学等における放射線安全管理の実際 2016年改訂版」
(9−03)
本会和文誌「放射化学」がJ-STAGEに登載決定
(9−04)
放射化学討論会全要旨のweb公開
(9−05)
「理研Day:研究者と話そう」で、本会会員が、新元素などの話題で登場
 
 
 

 

 

(9-01) 初のXAFSスペクトル測定によるアクチニウムの溶液化学研究

アクチニウム(Ac)は、アクチノイド系列の最初の元素であり、がんの放射線治療への応用も期待される元素でもある。しかし、その主要な同位体であるAc-225(半減期:10.0日)やAc-227(21.8年)は、それぞれネプツニウム系列とアクチニウム系列に属する放射性核種であるが、その分離は困難であり、通常得られる量も数マイクログラムと微量である。またAc3+は電子が閉殻であるため、通常の紫外可視領域の分光法が利用できない。そのため、Ac3+の性質や化学反応はこれまで直接調べられた例が少なく、同じアクチノイドで+3価のアメリシウム(Am)やランタノイド系列の最初の元素であるランタン(La)と類似するものと考えられてきた。しかし、Ac3+のイオン半径(6配位で1.120 Å)は、La3+(1.032 Å)やAm3+(0.975 Å)より著しく大きく[2]、Ac3+の化学はこれらのイオンからの予想とは大きく異なる可能性がある。そこで米国Los Alamos国立研究所のFerrierらは、極微量でも分光データが得られるX線吸収微細構造法(XAFS法)に着目し、Ac3+のXAFSスペクトルを得ることに初めて成功した[1]。
試料はLos Alamos国立研究所で調製され、比放射能を減らすため、子孫核種を分離した後速やかにスタンフォード・シンクロトロン放射光施設(Stanford Synchrotron Radiation Lightsource)に送られた。ここでは、100素子のゲルマニウム半導体検出器を用いた蛍光法により、高感度にXAFSスペクトルが得られる。その結果、Ac3+の塩酸溶液のX線吸収端近傍構造(XANES)および広域X線吸収微細構造(EXAFS)が得られた。また比較として、Am3+の塩酸溶液および水和イオンについても測定が行われた。
Acについては、Ac3+の11 M塩酸溶液のEXAFSについて解析が行われ、溶液中のAc3+に対して最近接の酸素および塩素との原子間距離(r)と配位数(CN)が求められた(Ac-O: r=2.59 Å, CN=6.6±1.8; Ac-Cl: r=2.95 Å, CN=3.2±1.1)。また、DFT計算を組み込んだ分子動力学計算による結果との比較から、得られたEXAFSパラメータが妥当であることも確認されている。Am3+に対する同様の11 M塩酸溶液のEXAFSパラメータは、Am-Oでr=2.48 Å, CN=8.3±0.9、Am-Clでr=2.75 Å, CN=0.8±0.3であった。ここで最も注目すべきことは、酸素と塩素のCNの違いである。通常アクチノイドイオンはハードなイオンであり、酸素(水和水)との結合が強いと考えられており、実際Am3+では、CN(Am-O)が8.3であるのに対してCN(Am-Cl)は0.8であり、第一配位圏への塩素の寄与は小さい。しかし、Ac3+では、CN(Ac-O)が6.6であるのに対してCN(Ac-Cl)は3.2であった。これはAc3+がAm3+に比べてより塩素と相互作用しやすく、よりソフトな性質を持つことを示す。今後は、フッ素からヨウ素までのハロゲンに対する親和性の系統的違いなどに関心が持たれる。
こうしたAcの化学をよりよく理解することは、Ac-225のがん放射線治療への応用を推進する上で重要になる。Acのようなα放射体は、α線のエネルギーが高く、また飛程が短い。そのため、このAc-225の壊変は局所的に大きなエネルギーを与えられるため、他の組織にダメージを与えることなくがん細胞を死滅させることができるとして注目されている[3]。この手法をAcに適用するには、がん細胞に選択的に集積しやすい配位子とAcとの錯体の安定性が重要となり、今回の結果に基づくAcの配位化学のより精密な理解が、Ac-225を用いたがん放射線治療の発展に重要な貢献をすると期待される。
[1] Ferrier, M. G. et al. (2016) Nature Commun. http://dx.doi.org/10.1038/ncomms12312.
[2] Shannon, R. D. (1976) Acta Crystallogr. A32, 751.
[3] Ulmert, D., Abou, D., Lilja, H., Larson, S., and Thorek, D. (2015) J. Nucl. Med. 56, 281.
(YT)

 

(9-02) 新刊紹介「大学等における放射線安全管理の実際 2016年改訂版」

本書の初版が刊行されたのは1994年のことである。刊行から20年が経過し、その間様々な法令改正が行われた。国立大学は法人化され、それまでの人事院規則から電離則が適用されるようになった。放射線障害防止法令の監督官庁は当時の科学技術庁から文部科学省に移り、さらに福島第一原子力発電所事故を踏まえて原子力規制委員会へと移った。本書は、このような背景から内容が大幅に見直され、2016年改訂版として刊行されたものである。大学等における教育・研究、安全取扱、放射線管理などに効果的に活用できるガイドブック、マニュアルあるいはテキストとして利用できるよう、国立大学アイソトープ総合センターのメンバーを中心に編集されている。内容には、原子力規制庁放射線規制室からのコメントも反映されており、正確性にも万全が期されている。
内容を見ると、第一章は放射線安全管理の基本として、放射線安全に関連する法体系の概要に始まり、放射線施設の概要、業務従事者の認定など、基礎がコンパクトにまとめられている。第二章では、放射線安全管理の実務として、許可届出等の手続きの要点や、施設、RI・発生装置、廃棄物、環境・個人モニタリングの管理の実務について具体的に述べられている。第三章では、放射線安全管理の留意事項として、自主点検、各種検査の受け方、異常時の対応・対策、線源管理、管理機器の保守、コンピュータによる放射線管理、核燃料物質等放射線障害防止法対象外の放射性物質の管理などについて詳細な記述がある。第四章は参考資料となっており、用語や基準値の解説がまとめられている。
 なお、1994年版にあった申請書等の作成については、今年5月に刊行された「大学等における申請書等の作成マニュアル2016年改訂版」にその内容を譲っているため、併せて参考にしたい。
http://shisetsu.ric.u-tokyo.ac.jp/book.html

「大学等における放射線安全管理の実際 2016年改訂版」 大学等放射線施設協議会編、株式会社アドスリー、2016.9.23
目次
【第Ⅰ章 放射線安全管理の基本】1.放射性同位元素等の使用と関係法令/2.放射線安全管理体制/3.放射線障害予防規程の意義/4.放射線施設の特徴/5.放射線業務従事者等の認定・登録/6.記録・記帳と帳簿類の保存
【第Ⅱ章 放射線安全管理の実務】1.許可・届出の手続きの要点/2. 放射線施設の保守・管理の要点/3.RIの安全管理/4.放射性同位元素等によって汚染された物の安全管理/5.放射線発生装置の安全管理/6.環境の安全管理/7.個人の安全管理
【第Ⅲ章 放射線安全管理の留意事項】1.自主点検のあり方/2.立入検査の受け方/3.立入検査の指摘事項に対する措置/4.施設検査/5.定期検査・定期確認/6.外部機関に所属する者に対する放射線管理/7.異常時等の措置/8.報告徴収について/9.放射能の減衰についての考え方と実務上の注意/10.1日最大使用数量を超えさせないための方策/11.夜間または休日における管理区域入退の注意事項/12.バイオサイエンスの分野におけるRI等の取扱い上の注意/13.不用になった密封線源の取扱い上の注意/14.校正用密封小線源などの管理/15.医療分野における放射性同位元素・放射線の取扱い上の注意/16.放射線関連装置・器具等の廃棄時の注意/17.放射線管理機器等の保守・管理/18.コンピュータによる放射線管理/19.放射線障害防止法規制対象外の放射性物質等の管理
【第Ⅳ章 参考資料】1.放射線管理に関係する用語の解説/2.基準値等の解説/3.略語表/4.関係機関
(SH)

 

(9-03) 本会和文誌「放射化学」がJ-STAGEに登載決定

日本放射化学会和文誌「放射化学」が,2017年度より,国立研究開発法人科学技術振興機構が構築した「科学技術情報発信・流通総合システム(Japan Science and Technology Information Aggregator, Electronic)」に登載されることになった.J-STAGEは,我が国の科学技術研究を国際的な水準に保ち発展させていくため,学協会が発行している学会誌や論文誌を電子化・インターネット上で公開し,優れた研究開発成果をいち早く世界に発信していくシステムである.
今後,「放射化学」に掲載された学術論文は,日本放射化学会のホームページだけでなく,J-STAGEのハードウェアとソフトウェアを活用し,24時間,世界中どこからでもアクセスできるようになる.J-STAGEへは,以下のホームページにアクセスされたい.
(日本語)https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja/
(英語)https://www.jstage.jst.go.jp/browse
(HH)

 

(9-04) 放射化学討論会全要旨のweb公開

 今から10年前の2006年、第50回放射化学討論会記念企画として「放射化学討論会要旨集」DVDが作成され、本学会会員への無料配布が行われた。当時から会員であった方は、きっと今もお手元にあることだろう。そのDVDの概要を振り返ると、作業は放射化学討論会50回記念事業の世話人で、当時の本会副会長であった東京大学アイソトープ総合センターの巻出義紘教授の指示の元に行われた。以下に、当時のreadmeファイルを引用する。
「放射化学討論会要旨集全巻のPDF化集録事業について
 昭和32年(1957)に第1回放射化学討論会が開催され、50年目にあたる平成18年(2006)の第50回放射化学討論会記念大会開催にあたり、これまで50回の討論会のあゆみを振り返るために、全巻の要旨集を集録することとした。要旨集全巻の収集に当って、斎藤信房先生、富永健先生はじめ、各位からのご寄贈により、複写用(その後本格製本して図書館で保管)一揃いと、書き込み部分等の修正用および第50回討論会における展示用に分冊のままの一揃い、と計2組を揃えることができた。その後1万数千ページにも及ぶ要旨集から、百数十時間をかけて複写の後PDF化し、 DVDに収録した。協力を得た各位に感謝する。しかし十数年前には、積めば1mにもなる要旨集全巻が僅か10グラムのディスク一枚に収まるとは想像もつかなかったことである。手許に置いて、過去の研究を懐かしく回顧し、あるいは先人の業績をたどり、あるいは今後の研究のヒントを求めて閲覧していただければ幸甚である。
(編集責任: 東京大学・巻出義紘 ; 2006年10月)」
 当時の作業を振り返ると、要旨集を裁断機で1枚ごとに分割、それをコピー機のスキャナを利用してPDFファイルを作成した。ファイルは、年度、項目ごとに整理して系統立てた連番を振ることにした。当時はUSBメモリもまだ高価であり、CD1枚には入りきらない容量であったため、DVD-ROMとして配布されることになった。当時のDVDによくあった手法として、PCにセットすると、自動的にブラウザが立ち上がるように工夫した。リンク用のHTMLを書き、表の中のファイル名をクリックすることで該当ページのPDFファイルを表示できるようにした。
 当時、東京大学アイソトープ総合センターに職を得たばかりの記者もこれらの裏方作業を担当した(実は、DVDのHTMLのページに反映されない部分に名前を隠してある)。完成したDVDをご覧になった巻出先生が、前書きのようにディスク1枚に納められるようになったと感心されていたことを思い出す。
 それから10年経った今年、放射化学討論会は60回の節目を迎えた。酒井陽一ネット・広報担当理事の提案により、放射化学討論会60回記念事業(世話人:新潟大学工藤久昭教授)として「放射化学討論会要旨集」の増補版を作成することになった。増補版では、DVDの作成は行わず、第59回までの全要旨をweb公開することになった。この背景には、10年前よりも本学会のwebサーバー容量が増えたことや、光学ディスクの付いていないコンピュータが増えたことも挙げられる。
 作業は、第51回〜第59回までの実行委員長にご協力いただき、全ての要旨集原稿の電子ファイルを収集することから始まった。集まったファイルはWord, Excel, PDFなど形式が様々、ファイルのとりまとめ状況も様々であったが、最終的に要旨には発表番号を振り、全てをPDFファイルにし変換して、連番を振った。また、第50回までのPDFファイルは予稿集をスキャンしたままであったが、今回、全てのファイルにODR処理を行い透明テキスト付きにした。この作業により、全要旨集内の単語検索が可能になった。
 2016年9月9日、放射化学討論会60回記念大会の開幕に合わせて「放射化学討論会講演要旨集」を日本放射化学会のwebサイトに公開した。
http://www.radiochem.org/jnrs-abst/
今後、第60回以降の要旨集は、討論会終了後に一定の期間をおいてwebに公開する方針である。放射化学討論会のレガシーとして、今後の関連研究の発展に寄与できることを期待している。
 最後に、ファイルの提供にご協力いただいた第51回〜第60回放射化学討論会実行委員会・委員長に謝意を表する。そして、「放射化学討論会要旨集」DVDの作成の発案・作業に尽力された巻出義紘先生に最大の感謝を捧げる。
(SH)

 

(9-05) 「理研Day:研究者と話そう」で、本会会員が、新元素などの話題で登場

理研では、毎月第3日曜日に科学技術館4Fシンラドーム(東京都千代田区北の丸公園)で、研究者とのトークイベント「理研DAY:研究者と話そう」を開催している。2016年10月16日の「理研Day:研究者」は日本放射化学会・会員で理事でもある羽場宏光氏(理研・仁科加速器研究センター)である。「新元素の化学からがんの診断・治療まで」というタイトルである。 
・理研RIビームファクトリーの重イオン加速器って何? 
・ラジオアイソトープ(RI)とは何? 
・新元素はどうやって作るの? 
・どうやって医療に応用するの? 
といった話題で一般向けのレベルで聴講者との語らいがなされる。小学生でも参加できるとのこと、理科好きの子供たちの夢も膨らませてくれることであろう。詳細は以下のウェブサイトを参照されたい。
http://www.riken.jp/pr/visiting/riken_day/
(YS)